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東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)49号 判決

東京都杉並区下高井戸一丁目三一番一〇号

原告

塚本三千一

右訴訟代理人弁護士

稲葉隆

東京都杉並区成田東四丁目一五番八号

被告

杉並税務署長

右指定代理人

藤村啓

大平靖二

古田幸三郎

中川精二

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告の昭和三六年分所得税について昭和四〇年九月一五日付でした更正及び重加算税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二原告の請求原因

一  原告の昭和三六年分所得税について、原告がした確定申告及び修正申告、これに対して被告がした更正及び重加算税の賦課決定並びに原告がした審査請求に対して東京国税局長がした裁決の経緯は、別表記載のとおりである。

二  しかしながら、右更正(右裁決により維持された部分。以下「本件更正」という。)には原告の所得金額を過大に認定した違法があり、違法な本件更正を前提としてされた右賦課決定(右裁決により維持された部分。以下「本件賦課決定」という。)も違法である。よつて、原告は、本件更正及び賦課決定の取消しを求める。

第三請求原因に対する被告の認否及び主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。

二  被告の主張

1  原告の昭和三六年分の総所得金額は、一一八七万五五二〇円であり、これは、原告の修正申告に係る不動産所得の金額一〇万五〇二〇円、給与所得の金額一一九万三〇〇〇円及び譲渡所得の金額五七万七五〇〇円に、以下に述べる配当所得の金額一〇〇〇万円を加算したものである。

(一) 日本住宅株式会社(以下「日本住宅」という。)は、昭和三六年中に大久保七之助外延べ二〇名に対する土地仕入代金として一〇〇〇万円を支出した旨の会計処理をしていたが、右大久保らからの仕入は架空仕入であり、右一〇〇〇万円(以下「本件金員」という。)は、同年中に日本住宅の株主である原告に給付され、原告は、右金員を田園都市開発株式会社の増資資金及び丸善商事株式会社の設立資本金に充てていた。

(二) そして、日本住宅の実質的株主は原告一人であり、原告以外の他の株主はいわゆる名義株主に過ぎないから、本件金員は、日本住宅から原告に対してその株主たる地位に基づいて給付されたものと認められる。したがつて、本件金員は、旧所得税法(昭和二二年法律第二七号。以下同じ。)第九条第一項第二号の「法人から受ける利益の配当」に当たり、原告の昭和三六年分の配当所得の金額となる。

2  仮に、本件金員が右配当に当たらないとしても、法人からの贈与に当たるから、右金員は、旧所得税法第九条第一項第九号の一時所得に係る総収入金額となる。したがつて、本件更正及び賦課決定は、本件金員を一時所得として計算した限度において違法はない。

第四被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、不動産所得、給与所得及び譲渡所得の各金額が被告主張のとおりであること、(一)記載の事実並びに(二)記載の日本住宅の実質的株主が原告一人であり、原告以外の他の株主がいわゆる名義株主に過ぎない事実は認めるが、その余の主張は争う。

2  被告の主張2は争う。

二  原告の反論

本件金員は、配当ないし贈与ではなく、原告の日本住宅からの借入金である。その理由は、以下に述べるとおりである。

1  本件金員は、原告が前記増資資金及び設立資本金に充てるために日本住宅から持ち出したものであるが、右金員については、原告も日本住宅も原告の日本住宅からの借入金と考えていたものである。

2  日本住宅の資本金は一〇〇〇万円であるところ、資本金と同額の金員を一度に株主に配当することは通常考えられないことであり、また、資本金と同額の金員を贈与することは特別な理由のある場合に限られるが、本件においてそのような理由は見出せない。

3  旧所得税法第九条第一項第二号にいう「利益の配当」とは、商法上利益配当として認められるもの、すなわち適法な利益配当を指すものと解すべきであり、利益配当というためには、現実の利益の発生を前提とし、少なくとも株主総会の決議を経る必要があるのみならず、最少限度一応の損益計算に基づく利益が出資額に応じて株主(名義株主を含む。)に配分されるという形式をとらなければならない。しかるに、日本住宅には配当可能な現実の利益は発生しておらず、原告に本件金員を配当する旨の株主総会の決議もされていないのみならず、本件金員について損益計算が全くされておらず、出資額に応じて株主に配分されるという形式もとられていない。したがつて、本件金員は「利益の配当」に当たらない。

第五原告の反論に対する被告の反論

一  原告と日本住宅との間に本件金員について金銭消費貸借契約が締結されたことはない。また、右金員が貸付金であるとすれば、日本住宅の確定決算に基づく貸借対照表に貸付金として計上されるべきこととなるが、日本住宅は、右金員を貸付金として計上していないこと及び昭和三七年以降現在に至るまで利息等に関する約定もされず、原告において右金員を収得したまま返済していないことからも、右金員を貸付金と認めることはできない。

二  原告の反論3に対して

「利益の配当」には、商法の規定に従つて適法にされたものに限らず、商法が規制の対象とし商法の見地からは不適法とされるものであつても含まれるものと解すべきである。したがつて、日本住宅が原告に本件金員を配当することについて株主総会の決議を経ていない違法があつたとしても、右金員は所得税法上配当以外のものではあり得ない。

また、日本住宅が原告にのみ本件金員を給付したことは、日本住宅の実質的株主が原告一人であること前記のとおりであるから、実質的に見れば出資額に応じて株主に配分したことにほかならない。

第六証拠関係

一  原告

1  甲第一ないし第三号証を提出

2  乙第一号証の原本の存在及び成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証を写をもつて提出

2  甲号各証の成立はいずれも認める。

理由

一  請求原因一の事実、原告の昭和三六年分の不動産所得の金額が一〇万五〇二〇円、給与所得の金額が一一九万三〇〇〇円、譲渡所得の金額が五七万七五〇〇円であることは当事者間に争いがない。

二  そこで、原告に被告主張の配当所得があつたかどうかについて判断する。

1  被告の主張1の(一)の事実は当事者間に争いがない。原告は日本住宅から原告に対する本件金員の給付は日本住宅から原告に対する貸付金としてされたものである旨を主張し成立に争いのない甲第三号証には右主張にそう原告の陳述記載があるが、右記載によるも利息や弁済期については定めがなく、その後返済もしていないというのであるうえ、右争いのない事実によれば、本件金員は日本住宅の会計処理において土地仕入代金として損金に経理され、資産として計上されていないのであるから、右陳述は到底措信し難く、他に右給付が将来返済する約束の下にされた事実を認めるに足りる証拠はない。そして、右当事者間に争いのない事実によれば、本件金員はその給付当時他会社の増資資金又は設立資本金として原告のために消費されているのであるから、本件金員は終局的に原告に帰属するものとして給付されたものと断ぜざるを得ない。

2  次に、日本住宅の実質的株主が原告一人であり、原告以外の他の株主がいわゆる名義株主に過ぎないことは当事者間に争いがなく、また、前掲甲第三号証によれば、本件金員が原告に給付された当時原告は日本住宅の役員でも使用人でもなかつたことが認められる。

そうすると、原告がその株主であること以外に日本住宅が原告に対し右給付をする理由を考えることはできないから、右給付は、日本住宅から原告の株主たる地位に基づいてされたものと判断すべきである。したがつて、本件金員の給付は、旧所得税法第九条第一項第二号の「法人から受ける利益の配当」に該当する。

これに対し、原告は、「利益の配当」とは商法上適法な利益配当に限られるから、本件金員は「利益の配当」に当たらないと主張する。

しかしながら、会社から株主たる地位にある者に対して、株主たる地位に基づいてされる金銭的給付は、たとえ、それが当該会社に利益がないのにされ、あるいは株主総会の決議を経ずにされるなど商法上不適法なものであるとしても、所得税法上、その性質は配当以外のものではあり得ないから、これを右「法人から受ける利益の配当」というに妨げず、原告の右主張は失当である。

3  よつて、原告には昭和三六年中に被告主張の一〇〇〇万円の配当所得があつたものというべきである。

三  したがつて、原告の昭和三六年中の前記不動産所得、給与所得及び譲渡所得の各金額に右配当所得の金額を加算して同年中の総所得金額を算出すると、一一八七万五五二〇円となるから、本件更正に原告主張の違法はなく、本件更正を前提としてされた本件賦課決定にも原告主張の違法はない。

よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 菅原晴郎 裁判官 成瀬正己)

別表

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